北あかり

R0012012 じゃがいもの品種についてを書くのは、久しぶりになります。

10年ほど前は、私自身も品種について熟成状態を探りながらデータを集め、発見があれば個人ブログでお伝えしていたのですが、ここ5年程、熟成じゃがいもという言葉が氾濫したり、個人のブログ内から文章の抜粋をされることが多くなった為に控えておりました。
ただ、私もそろそろ次のステップを踏もうとする時期に入り、尚更に基本に戻りたくもあります。
また、皆さんと村上農場の基礎データを共有する事で共通認識を深めたい気持ちもあり、主要品種について少しずつお話しさせて頂こうと思います。

実際、長い間、ジャガイモと向き合ってきましたが、私達が特殊な仕事をしている為か、インターネットで収集できる情報はそれほど多くありません。
肝心な事はネットで得る事は出来ません。誰も知らないからです。
世の中にはまだ生まれていない情報が山ほどあります。
だからこそ、自分で調べ、データを採るしかありません。
私がここで書く範囲がどの程度の物になるかは分りませんが、何らかの形で皆さんのお役に立てたらと、思います。
尚、品種に纏わるデータはネット検索で通り一遍の事はお分かり頂けると思いますので、一般的な情報は省き、主観を交えてお伝えしたいと思いますのでご了承下さい。

 

 

 まずは、村上農場が長く主力としてきた北あかりのお話からしましょう。

北あかりは、今でこそベーシックな品種に感じますが、実際、十勝の作付面積は未だ数パーセントにしか及ばない品種です。 どちらかというと、小さな面積で生食用のジャガイモを多く作付している農業地帯で作られることが多いと思います。
全体の生産量が少ないので、品種の認知度に対しての流通量はそれほど多くありません。つい五年ほど前までは種芋が大変手に入りにくく、私達自身、種芋の入手には大変苦労していました。
関東での流通は比較的早い段階で進みましたが、関西はそれからやや暫く遅れ、そのほかの地域となると、今でも探すのは案外と難しいかもしれませんね。

人気品種であるにも関わらず、作付が広まらないのには、幾つかの理由があると思います。そして、それは私達の農場での北あかりのある種の問題に共通性がある様に思いますので、三つほど上げてみましょう。

 

まずは、打撲によるダメージに弱く、割れ、凹みなどによる歩留まりが悪いことです。
皆さんにはあまりイメージが無いと思いますが、農業現場では、収穫後に使うフレコンパックの繊維やコンテナの金網などの痕が表皮に付きやすく、多少の打ち身で深い亀裂や打撲痕が発生する為、土落としから箱詰めの選果の流れでも、細やかな配慮が必要とされます。
クオリティの高い状態でお届けする為には必然的に歩留まりが落ちます。
私達の農場では選果中に落下したもの等は、たとえ高低差が30cm程度のマットの上、しかも表面に見当たる傷が無かったとしても、一切を省く様にしています。

 

次に、小粒が多く発生する品種であること。
私達は、食味の良いサイズ=市場で高値で取引されるLサイズ、LLサイズ、とは認識していません。この辺の「大きいものは良いものだ神話」は、過去の市場流通で料理をしないおじさま方が生んだ俗説に他ならないのですが、未だ世の中に存在するので、なかなか苦労するところです。
私達は、美味しさはLMサイズ(MとLの中間サイズ101g~120g)にあると考えていますので、LMサイズを狙った生産を心がけており、当然Lサイズを目指す栽培よりもS、SSサイズが多く発生します。
私達の農場のじゃがいもの畑では、除草剤を全く使わない為、発芽初期のじゃがいも達が雑草に競り負けない為の生育の起爆剤として、化学肥料を二割使用する畑が大部分を占めています。(※化学肥料・農薬を全く使わない事もあります。)じゃがいも自体が、傷の付いた枝葉からウイルス性の病気を発生しやすい作物であることから、たとえ除草といえども人を畑に入れない為の苦肉の策なのですが、この二割の化学肥料は長期で生育を助ける役割を果たさない量なので、収穫期の玉サイズに殆ど影響しません。
こうした複合的な理由で、この十数年の私達の大きな悩みは、北あかりの生産量に占める小粒のパーセンテージが極めて高い事にあります。

これまで、私たちは、北あかりのS、SSサイズの生産量を減らす努力をしてきました。
ところが今年に入り、農場長が、この十数年の栽培の結果を経てまだまだ研究の余地はあるものの、現状、私達の技術と畑を持ってしては、北あかりが小粒傾向の強い品種だ、と言いきりました。もうこれはかなり不可抗力である、というある種の宣言です。これは、私自身、物凄く驚くものがありました。
インカのめざめで代表される様に小粒傾向の強い品種は他にもあり、フランス系のジョアンナ、チェルシー等が該当しますが、一般的に北あかりが小粒傾向の品種だという認識は世の中に無い様に思います。 でも、実際、私達の農場では例年、北あかりの生産量の約13パーセントにあたる10トン強のSS~Sサイズの小粒が発生しますし、Sサイズ、SSサイズの販売力がなければ、必然的に作っても農家が収入の得られにくい品種になります。
ただし、化学肥料の投入や除草剤の使用で大粒に育てることが出来ます。その場合は、北あかりが小粒傾向の強い品種だとは感じにくいかもしれません。

 

そして、生産量の伸びない理由、
それは、何より北あかりの面白さにある、貯蔵中の食味と質感に変化が大きい事にあるのではないでしょうか。
そもそも、北あかりが沢山の方に好まれる訳は、柔らかい質感と糖変動にあります。
でも、コロッケやサラダなどの調理加工の現場では、質感が変わる事は好まれません。 時期によって加工適正が変化し、限定的になるからです。 例えばポテトサラダの粉質感を変えたくないのであれば、澱粉化の高い品種もそれぞれ個性的な変化がありますので、おおよそ1カ月~2カ月のスパンで品種を移行させるのが適当だと思います。

【食味について】

 私達の農場での北あかりの熟成の特徴は、低温で環境を整えると澱粉質が糖に変化し、同時に内部の水分率が上昇、若干の粘化が発生する事にあります。

甘くなった北あかりのポテトサラダにやや重い水分を感じる事がおありでしょう。
例えば、イタリアンのシェフが北あかりでニョッキをお作りになる際、水分率が上がる熟成期は新じゃが期に比べ、若干粉を多めに必要とします。

マッシュする際に、粘りを引き出さない方法としては、北あかりの様に熟成して内部の水分率が上がる品種は、外から充分な水分を含ませる事によって粘りが増しますので、まずはなるべく水分を入れない様に調理する事が大切です。
次に、個体の温度が下がる前にマッシュします。
更に必要以上にマッシュしたり、こねてはいけません。例えば、ポテトサラダだとしたら、具を混ぜる際にも潰れて粘りが出ますので、蒸かし上がったら荒く切る程度で十分です。
火入れ時の水分の含ませ方、マッシュする直前の温度、こねる事によって生まれる粘り、これらは新じゃが期には寛容でも、熟成期になるほどシビアになります。

また、粘化に関しては畑での栽培も大きく影響します。
丁寧に栽培されたものとそうでないもの、低温貯蔵(熟成)させたものと単純な保管としての貯蔵もの等、素性の違いで異なります。
より丁寧に育て、澱粉化を乗せ、完熟して収穫する事で熟成期に粘化が進みます。
また、栽培から影響される細胞のサイズ問題もある様に思います。

丁寧に栽培され熟成を掛けた熟成期の北あかりは、粘化の影響を受けて煮物にも耐え、粘質のじゃがいもを煮たのとは別の柔らかさや味の染み込みをします。
粘質系のじゃがいもには出せない、お腹も心も温まる、愛情さえ感じる様な、何とも言えない質感の仕上がりになります。
ほっこり、身も心も温まる味わいです。

また、内部の水分率が上昇する品種は、コトコト煮る事により外から水分を含ませ、じゃがいも内部の水分と手を結ばせてあげる事で、素晴らしいテクスチャーを生みます。
私達の農場ではティスティングに関しては蒸す事を第一優先にしますが、こうした特徴が出た時期、特定の品種に関しては、蒸しても良さを発見出来ません。
むしろ、蒸気の水分で味の判断がつきにくくなります。
蒸した際に水分と喧嘩していると感じたら、ローストや煮てその味わいを最大限に引き出し、試すしかないのです。

逆に、サンドイッチのポテサラなど粘り気が欲しいものに関しては、性質を逆手に取り、火入れ後に粗熱が取れてからマッシュをして粘りを出すことで、マヨネーズを減らすことが出来ます。
また、こねることに関しては、フードプロセッサーなどを使うと強力な粘り(グルテン)を生む事も出来ますので、料理の矛先次第でまるで違う野菜を扱うかの様に楽しめます。

 

味わいとしては、新じゃが期にさっぱりした状態では食材合わせも楽しめますが、個性が強くなる熟成期は自己主張が強い品種ですので、北あかり単体が主役になる料理、もしくは甘味の対極にある塩辛さ、酸味、苦味の強いものと相性が良くなります。
例えば、チーズも新じゃが期にはラクレットの様な柔らかい味の物、熟成期にはブルーチーズなど、塩分濃度の高いものが相性が良好です。

熟成期の話に傾向しましたが、新じゃが期は“じゃがバター”やラクレットチーズを、じゃがいも球体の上に落とす適正期になります。
私個人の意見としては、収穫後の1カ月間、私達の農場ではおおよそ9月末までがじゃがバターに合う時期でしょうか。
この時期は北あかりを蒸すと、皮が弾け、口を開けます。
中には、キラキラ輝く粉質が見えますので、そこにバターを落としたりチーズを落としたりします。
空気を含んだ粉質は、見事にバターを吸い込み吸収します。
吹いた粉と溶けたチーズも軽やかで相性よし。
この時期を外れると、バターは表面で溶けて表面を流れる様になります。10月以降に楽しむなら、フォークの背で押す様に軽く潰し、バターやチーズを落とすのもお勧めです。締まった果肉に対し、空気を入れて新じゃがに近付けるのです。

 

他の食材の存在感を奪う味わい、それが北あかりの最大の特徴かもしれませんね。

R0013389

 

 

 

村上 智華 担当 電話受付・販売

熟成させたじゃがいもの味や質を見極め、販売時期を決める仕事を担当しています。お電話では、個人のお客様からプロの方まで、品種ごとの熟成状態をご説明したり、料理合わせのご提案をしております。お客様と人として寄り添い合い、長いお付き合いを築けたらと思っています。

1 / 11